技能実習生の制度が廃止というニュースを見たけど今後どうなるの?
今まである技能実習生の制度は廃止されて、改正された新制度(育成就労制度)として残るようです。この記事でもう少し詳しく解説しますね。
令和6年2月9日、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議において、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」が決定されました。
育成就労制度とは?
育成就労制度とは、技能実習制度に代わる新制度の名称です。
以前から色々な問題が指摘されてきた技能実習制度ですが、今後の動向として技能実習生制度にかわる新制度(育成就労制度)が誕生するようです。
ただし、単純に技能実習制度を無くそうというような話ではなく、現行の技能実習制度をより良い制度に改正し、新制度として残そうという意味合いの制度改正です。
この記事では、技能実習廃止後の新制度「育成就労制度」がどんな制度なのかを行政書士目線でわかりやすくご紹介します。
技能実習制度は「技能移転」を目的としていましたが、新制度の育成就労制度では名称からも分かるとおり、日本の労働力確保を目的とする特定技能制度により近づいた制度みたいですね。
育成就労制度はいつから導入される?
育成就労制度は現時点でいつから開始されるかは決まっていませんが、早くても2027年の制度開始になる予定です。※今国会に関連法の改正案が提出される予定のようです。
今が2024年だから・・・、結構先の話なんですね・・・
育成就労制度で受け入れできる職種や業種は?
新制度の育成就労制度で受け入れができる職種は特定技能制度と同じ職種(業種)になる見込みです。
現状では育成就労制度で受け入れ可能な職種は下記の12分野です
特定技能制度の分野に追加がありました。新しく増える業種は「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」の4分野です。
もちろん、育成就労制度でも上記4分野は対象になります。
育成就労制度で受け入れ可能な12分野 |
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1.介護分野 |
2.ビルクリーニング分野 |
3.素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野 |
4.建設分野 |
5.造船・舶用工業分野 |
6.自動車整備分野 |
7.航空分野 |
8.宿泊分野 |
9.農業分野 |
10.漁業分野 |
11.飲食料品製造業分野 |
12.外食業分野 |
育成就労制度の業務区分(業務内容のこと)も、特定技能制度と同じになるようです。
育成就労制度の受け入れ見込み人数は、特定技能制度と同様に各分野(職種)ごとに受け入れ人数の上限が設定されるようです。
育成就労制度の転籍(転職)について
技能実習制度では原則転職は不可でしたが、新制度の育成就労制度では外国人本人の意向による転籍(転職)が認められます。転籍は下記の条件を満たしていれば認められます。
育成就労制度の転籍条件 |
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転籍前と同じ業務区分であること |
転籍前の企業での就労が1年を超えていること |
技能検定試験の基礎級に合格していること |
日本語能力試験のN5等に合格していること |
転籍後の企業の適正性が認められること |
上記の条件を全て満たさないと転籍はできないようです。※受け入れ企業の倒産などは除く
育成就労制度に必要な条件
育成就労制度では、外国人が就労を開始するまでに日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)に合格すること、または、相当の日本語学習を受講することを条件としています。
また、育成就労制度で外国人を受け入れた機関(企業)は、受け入れ後1年が経過するまでに技能検定試験の基礎級と日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)を受験させる義務が発生します。
なお、育成就労制度は技能実習制度や特定技能制度と同様、家族の帯同は認められません。
在留資格「育成就労」の期間や期限
育成就労制度は基本的に3年の期間日本で就労する制度です。ここは従前の技能実習制度と同じです。
育成就労の在留資格で3年間日本で就労した後、一定の条件をクリアしていれば在留資格を特定技能1号に変更して引き続き日本で就労が可能です。
育成就労から特定技能への移行条件
在留資格「育成就労」から特定技能1号へ移行する条件などは下記のとおりです。
・育成就労から特定技能1号への条件
①技能検定試験3級または特定技能評価試験の合格
②日本語能力試験N4等の合格
・上記の試験が不合格だった場合、再受験のために最長1年の在留継続が認められる。
育成就労制度における監理団体
技能実習制度の「監理団体」は、新制度の育成就労制度でも引き続き存続するようです。
ただし、育成就労制度のスタートにあわせて新たに下記のことを担保して監理団体の許可の取り直しが必要になる予定です。
- 独立性・中立性
- 受け入れ機関数に応じた職員の配置や相談体制
また、優良な監理団体には申請書類の簡素化などの優遇措置もあるようです。
技能実習制度と育成就労制度の違い
まず、有識者会議で検討される方向性としては「技能実習制生度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討するべき」としています。
人材確保は特定技能よりの目的、人材育成は技能実習よりの目的なので、新制度は特定技能と技能実習を合体させたような制度というイメージです。
2つの制度比較
技能実習制度と廃止後の新制度をわかりやすく比較した表が下記のとおりです。
項目 | 現行の技能実習制度 | 育成就労制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 人材育成を通じた国際貢献 | 人材育成プラスα人材確保 |
対応している職種 | 特定技能と不一致(特定技能より幅広い) | 特定技能の12職種に合わせる |
受入れる外国人の人数設定 | 人数設定のプロセスが不透明(〇年間で○○人の受入れといった制度上の受入れ人数設定のこと) | 人数設定のプロセスを透明化する(〇年間で○○人の受入れといった制度上の受入れ人数設定のこと) |
外国人の転職の可否 | 原則、外国人は転職できない | 技能実習よりは転職しやすい状況になるが、詳細は未定(日本人のように完全に自由な転職はできない) |
管理監督や外国人への支援 | 現行制度では不十分な実情 | 監理団体や登録支援機関の要件を厳格化し、技能実習制度では不十分だった点を改善する |
日本語能力の向上施策 | 特に外国人の日本語能力の水準を設定していないため、入国直後は日本語を話せない外国人も多い | 企業での就労開始前に、一定の日本語能力を求める。また、就労開始後は日本語能力が上がるような仕組みを制度として設ける |
受入れ企業目線のメリットとデメリット
技能実習制度廃止後の新制度(育成就労制度)について、「受入れ企業目線」のメリットとデメリットを紹介します。
受入れ企業目線のメリット
技能実習制度廃止後の新制度には、受入れ企業側にとって次の様なメリットがあります。
長期の雇用が見込める
新制度プラスα特定技能技能への移行後5年の長期雇用が見込めます。
現行の技能実習制度では「技能実習の職種=特定技能の職種」ではないため、企業の職種によっては技能実習を修了した後に特定技能では雇用を継続できないことがありました。
新制度ではこれが無くなるため、外国人の長期雇用が見込めます。
日本語能力が高い外国人材が確保できる
新制度では「一定水準の日本語能力」が求められます。
製造業や農業などでは日本語能力はさして必要でないかもしれませんが、介護や飲食業などでは日本語をある程度話せないと仕事になりません。
現行の技能実習制度では、日本に入国直後は日本語をほとんど話せないというケースが比較的高い割り合いでありました。この点が改善されるのは新制度のメリットと言えます。
受入れ企業目線のデメリット
技能実習制度廃止後の新制度には、受入れ企業側にとって次の様な点がデメリットになり得ます。
受入れ可能な職種の範囲が狭まる
現行の技能実習制度では広範囲の職種で外国人の受入れが可能です。
技能実習廃止後の新制度では、職種を特定技能の12職種に合わせる案がでています。特定技能制度自体の対応職種が今後増える可能性もありますが、現状のままでいくと新制度では技能実習制度よりも受入れ可能な職種が狭くなります。
給料水準が高くなる
新制度では技能実習制度の時よりも外国人へ支払う給料水準が高くなると予想されます。
技能実習は労働者ではなく技能を習得しに来た実習生のため、外国人へ支払う給料水準が高くありませんでした。反対に新制度は労働者という意味合いが強まります。この為、外国人へ支払う給料は「日本人へ支払う給料と同程度」という制約が強くなります。
また、転職がある程度可能になることにより、給料などの雇用条件面の強化も企業努力として必然的に求められます。
転職される可能性が高くなる
現行の技能実習制度では転職が原則不可であったため、多くの場合は一度受入れた技能実習生は3年間(技能実習2号)は働いてくれるであろうという算段が立ちました。
新制度では転職がある程度自由となるため、「給料が安い」や「労働環境が悪い」と外国人が感じると転職される可能性があります。
新制度のまとめ
以前から「奴隷制度」と揶揄されてきた技能実習制度ですが、このような経緯から技能実習制度廃止後の新制度は「外国人保護」の目的・意味合いが強い制度のように感じます。
このため、受入れ企業側にとっては技能実習制度よりも「使い勝手」はあまりよくない制度となるかもしれません。
しかしながら、これも時代の流れ。日本の労働力不足は今後も続き、外国人の力なくしては企業経営が難しい職種・業種は今後も増えるでしょう。
海外から日本に来てくれる外国人の方に「日本に来てよかった」と思ってもらえるよう企業側も努力をし、「今ある制度」と上手に付き合って労働力の確保・維持を行うことが重要です。